円高は2025年以降の訪日インバウンド市場にどのような影響を与えるのか?4,200人の声とデータで徹底調査!

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はじめに

株式会社Payke(ペイク、本社:沖縄県那覇市、代表取締役:古田 奎輔、以下Payke)は、提供する訪日外国人向けショッピングサポートアプリ「Payke(ペイク)」内で「日本の円相場が訪日旅行需要に与える影響に関するアンケート」を実施しました。アンケートの結果を含め、表題の件についてレポートをまとめましたので、ご紹介いたします。

背景

日本政府観光局の発表(*1)によると、2024年の累計訪日外国人客数は3,686万人となり、過去最高であった2019年の年間累計を上回り、過去最多となる結果となりました。

2024年は円安の恩恵などもなり、訪日客年間消費額についても前年比53.4%増の8兆円を超え、訪日外国人客数とともに過去最高となりました。

一方、今後の金融市場においては、2024年に比べ円高に進む可能性も指摘されており、足元(2/21現在)1ドル=150円台で推移しています。この円高トレンドが進む場合、訪日客数・消費額増のトレンドに歯止めがかかるのか、それとも影響は限定的であるのか、その影響について動向が気になる方も多いのではないでしょうか。

今回は、訪日意欲の高い4,200人を超える外国人にアンケートで「円相場が日本旅行に与える影響」を聞くことで、円高が進んだ場合の影響について調べてみました。

*1日本政府観光局「訪日外客数(訪日外客数(2024年12月および年間推計値))」より https://www.jnto.go.jp/news/press/20250115_monthly.html

 

サマリー

・為替水準と訪日需要の間には、一定の相関性があるものの、必ずしも連動するわけではなく、その他多くの事象の影響が関係している。

・訪日旅行意欲が高い外国人において、25.5%が「円高であると訪日旅行をためらう」可能性がある。

・訪日旅行者数については、年間1ドル140円台の水準で推移した場合、円高の影響を考慮しても、2024年比+8.2%増と推定している。

・訪日客の消費額については、年間1ドル140円台の水準で推移した場合、円高での影響を考慮しても、2024年比で+0.5%増と推定している。

1. 訪日数の増減を左右する多様な要因

前提として、訪日外国人旅行者の数や消費額は、為替水準(円安・円高)以外にも多くの事象の影響を受けます。例えば、過去に以下のような多様な要因によって訪日市場に影響を与えました。(*2)

  • 政治的要因:日中関係や日韓関係によって訪日需要は大きく変化することがありました。また、日本周辺の地政学情勢によっても、訪日需要は大きく変化する可能性が指摘されています。
  • 災害要因:地震や台風などの自然災害が一時的な旅行需要減少を引き起こします。
  • 経済的要因:世界規模での経済危機(リーマンショック等)や、特定地域での経済危機(アジア通貨危機等)や経済成長中国や東南アジア等の経済発展や中間層の富裕層化など)による影響で訪日客数が増減してきました。
  • ビザの緩和措置:2013年の東南アジア諸国へのVISA緩和措置や2018年の中国の個人観光ビザ条件緩和措置により、訪日客数が増加しました。現状、VISA要件強化による減少の影響は限定的です。
  • 就航便の数:直行便がある国では訪日意欲が大幅に向上し、心理的・物理的に訪日へのハードルが下がるため訪日数は増加します。また、渡航便数(旅客船なども含む)そのものが、物理的な訪日旅行者数の上限数と比例する傾向にあります。
  • 国際イベント:ラグビーワールドカップや東京オリンピック・パラリンピック2021が訪日需要を促進した事例があります。
  • 日本旅行の魅力に関しての認知率:2012年以降の海外プロモーション活動の増加により、日本旅行に対する魅力の認知度が向上し、旅行者増に寄与しました。

これらの影響は、国や地域、そして時代によって異なります。複数の変数が存在するため、「為替」という一つの変数の変化だけで訪日客数及び訪日客消費額が決定するわけではありません。

*2.経産省『通商白書2023』https://www.meti.go.jp/report/tsuhaku2023/pdf/2-2-3.pdf

2. 円相場と訪日客数の推移をデータで振り返る

上記の前提を踏まえ、これまでの円相場(名目実効為替レート*3)と訪日数の推移を見てみましょう(図1)。

一見すると為替と訪日客数が連動しているように見える時期もありますが、為替以外の要因により、連動性のずれが起きている時期もあることがわかります。
例えば、2015年10月から2016年の8月にかけて円高が進んでいますが、訪日客数は月に150万人から200万人へと増加しています。主な要因としては、東南アジアをはじめとする国々に対してビザ要件の緩和・免除、LCC(格安航空会社)の路線拡張、訪日促進キャンペーン等のマーケティング強化が挙げられます。
*3.以下、日本銀行HPでの名目実効為替レート(=円インデックス)について。
『名目実効為替レートは、特定の2通貨間の為替レートをみているだけでは捉えられない、総合的な為替レートの変動をみるための指標です。具体的には、対象となる全ての通貨と日本円との間の2通貨間為替レートを、貿易額等で計った相対的な重要度でウエイト付けして集計・算出します。』
上記グラフの名目実効為替レートの値は下記のサイトの値を参照。

日本銀行『主要時系列統計データ表 https://www.stat-search.boj.or.jp/ssi/mtshtml/fm09_m_1.html

 

相関分析

以下のグラフをご覧ください。相関の強さは集計の時期により変化しますが、名目実行為替レートと訪日客数について、コロナ前ではやや相関があり、コロナ後には強い相関があります。
▼コロナ前における訪日外国人数と為替レートの相関係数

▼コロナ後における訪日外国人数と為替レートの相関係数

▼2008年以降の訪日外国人数と為替レートの相関係数(※コロナ期間を除く)

また、名目実行為替レートと訪日旅行者1人あたりの消費額の相関については、下記の図に示しました。コロナ前は負の相関があり、コロナ後には強い正の相関があり、通期で見ると非常に強い相関があることがわかります。つまり、特にコロナ以降においては、円安と旅行支出増加に強い相関性があり、コロナ後の円安傾向が訪日外国人消費額の拡大に大きな影響を及ぼしているということがわかります。

▼コロナ前における訪日外国人一人辺りの支出額と為替レートの相関係数

▼コロナ後における訪日外国人一人辺りの支出額と為替レートの相関係数

▼2017年以降の訪日外国人一人辺りの支出額と為替レートの相関係数(※コロナ期間を除く)

*上記の集計に用いた各種数値は下記のデータを参照。
訪日外国人数:日本政府観光局『訪日外客統計』https://www.jnto.go.jp/statistics/data/visitors-statistics/
訪日外国人消費額:観光庁『インバウンド消費動向調査』https://www.mlit.go.jp/kankocho/tokei_hakusyo/gaikokujinshohidoko.html
名目実行為替レート:日本銀行『主要時系列統計データ表』
https://www.stat-search.boj.or.jp/ssi/mtshtml/fm09_m_1.html

3. 訪日外国人4,210人へのアンケート調査の結果

上記を踏まえ、弊社が運営するPaykeアプリを通じて指定の言語を利用するユーザーに対し、アンケートを実施しました。回答数と属性と「円高が訪日意欲に与える影響」についての調査結果は以下の通りです。

◆対象:外国人観光客向けショッピングアプリ「Payke」を利用し、繁体字・韓国語・英語を使用するユーザー
◆集計方法:Paykeアプリ内のアンケート調査
◆回答数:4,210
◆集計期間:2週間

【結果】
設問1:直近の10年間で日本旅行をした回数は何回ですか?

設問2:日本旅行をするかどうかの判断に為替相場はどの程度影響しますか。
24.6%:円高でも訪日旅行をする
48.8%:円高でも訪日旅行はするが、滞在中の消費を抑える
25.5%:円高であると訪日旅行をためらう可能性がある
1.1%:円高にかかわらず訪日旅行をしない

なお、訪日回数が少ない層ほど、「円高であると訪日旅行を躊躇う可能性がある」と回答する割合が高くなることがわかりました。

設問3:日本円がどのくらいのレートだと日本旅行を延期または中止しますか。
訪日をためらう可能性がある25.5%の層のうち、「実際に、円がどれくらいのレートになると訪日旅行を断念するのかという」設問に対し、以下のような傾向が見られました。
全体の25%のうち、旅行をあきらめるレートと割合は下記の通り。
1ドル150円以上:17.0%
1ドル140円以上:40.5%
1ドル130円以上:64.1%
1ドル120円以上:82.3%
1ドル110円以上:94.3%

※回答が円高レートに進むにつれて回答割合を積み上げています。
※ユーザーに提示した設問では、回答者の言語毎に通貨の基準を変えています。
※今回の回答結果とグラフでは、ドル換算したレートに統一して結果を示しています。

これらの数字を踏まえると、1ドル160円のレートの場合を基準として、仮に1ドル140円までの円高水準になった場合、訪日旅行者数は9.1%減少の影響があるという結果となりました。

年代や性別により、為替が訪日旅行に及ぼす影響について差異があるかについても見てみました。
結果、男性は「為替によって旅行をためらわない」層が女性よりも多く、女性は「為替が消費行動や旅行に影響する」層が男性よりも多い結果となりました。
特に10代から40代においては、為替が訪日旅行に及ぼす影響について男女間で大きな差が生じていました。


設問4:
また、為替によって訪日旅行をためらうことはないが、訪日時の消費の節約を検討すると回答した方の節約を実施するレートに関しても調査を行いました。

「為替により滞在中の消費を抑える」と答えた人48.8%のうち、日本旅行を節約する割合は下記の通り。
1ドル150円以上:21.9%
1ドル140円以上:44.8%
1ドル130円以上:65.5%
1ドル120円以上:84.0%
1ドル110円以上:89.9%


※回答が円高レートに進むにつれて回答割合を積み上げています。

特に、消費を抑える項目についての回答(複数回答あり)では、下記の項目が特に多かったです。
「時計、衣類・靴・かばん・革製品・財布、宝石に関しての買物費用を抑える」:37.3%
「宿泊するホテルのグレードや部屋のグレードを落とすなどして、ホテルの利用費用を抑える」:32.7%
「タクシーの利用をせずに徒歩やバスや電車に切り替えたり、新幹線の座席のグレードを落とすなどして移動費用を抑える」:26.0%

一方で円安の際に、より積極的にお金を使いたい項目では下記の項目が多い結果となりました。
「食事の費用」を増やす:38.0%
「医薬品・化粧品・香水・健康グッズに関しての買物費用」を増やす:35.7%
「時計、衣類・靴・かばん・革製品・財布、宝石に関しての買物費用」を増やす:33.0%


4. 今後の訪日者数の動き

今年の為替相場について、2024年よりも円安傾向が進んでいくのか、それとも円高に進むのか、またその水準についてはまだまだ不透明です。
ただ、現状よりも一定水準での円高になったとしても、訪日旅行者数及び消費額へのインパクトは限定的だと言えるでしょう。
なぜなら、訪日外国人数の10年間(※2012年から2024年。コロナ期間(2020-2022)は除く))における年間成長率(CAGR)は年間13.3%で成長しており、円高における負の影響よりも、成長率の正の影響の方が大きいと考えられるからです。

弊社では、上記までのデータやインバウンド消費額のデータを加味すると、
Paykeでは2025年の見通しを下記のとおり予測しております。

【年間1ドル150円台レートで推移した場合】

訪日客数:4,220万人(対昨年比+14.4%、対19年比+32,3%)
消費額:9兆3893億円(対昨年比+15.3%、対19年比+95.0%)

【年間1ドル140円のレートで推移した場合】

訪日客数:3,992万人(対昨年比+8.2%、対19年比+25.2%)
消費額:8兆1832億円(対昨年比+0.5%、対19年比+70.0%)

 

尚、上述の通り、為替だけでの影響で訪日者数や消費額の増減を決定付けることはできないません。そのため、上記を基準とし、下記のプラス要因とリスク要因の影響を加味し、総合的に推測するのが良いと考えています。

プラスの要因として考えられるもの:
・円安基調の継続や、円高傾向への歯止め
・世界的もしくは訪日旅行客が多い地域での好景気
・旅客便の増加
・VISAの緩和
・地政学リスクの緩和
・日本への関心の更なる高まり

マイナスの要因として考えられるもの:
・東アジア地域などにおける地政学的リスク
・日本国内での大規模な震災等
・世界的な景気後退などによる、旅行需要の減少
・ドル円1ドル120円程度の過度な円高


5. Paykeが提供する価値

今回は、アンケートからユーザーのリアルな声を通じて、為替(主に円高)による影響を考えました。
訪日意欲が高く、訪日経験が多いユーザーに絞って聞くことで、為替の影響が及ぼす可能性について把握することができました。
今回のアンケートのように、Paykeリサーチ(アンケート)の強みは下記のようなものがあります。

 

  • 多言語対応:英語、中国語(繁体字・簡体字)、韓国語を含む7言語でのデータ収集。面倒な翻訳と集計は弊社にて内製化しているため安価で実施可能。
  • 豊富な調査対象と調査方法:国別、性別、年代別など特定のセグメントに絞った調査が可能。
  • 安定したサンプル数:セグメントには左右されるものの、安定して4,000件以上の調査サンプルを得ることができる。直近3か月における実施アンケートの平均集計数は、4,737件
  • アンケート対象者の質が高い:訪日頻度が多いユーザー、消費意欲が強いユーザー群。

今回のアンケートの回答者の94.8%は訪日経験者であり、87.0%は1年以内の旅行者であった。
また、回答者の39.0%は、直近10年で5回以上訪日旅行をしており、回答者の17.3%は10回以上訪日経験があり、毎年1回以上の頻度で日本に訪れている。
さらに、訪日時の予算については、韓国の回答者平均では政府統計数値の1.53倍、ユーザーの消費傾向が高い。

今回のアンケートの調査結果より

Payke独自のスキャンデータとアンケート結果との紐づけ:訪日後の購買行動との関連分析が可能

自社製品、競合他社製品を手に取っているユーザーの属性の違い等のアンケート結果と旅中・旅前後の消費データを紐づけ可能。

豊富なデータとユーザーから、各企業様のニーズに合わせたご提案が可能です。
Paykeの保有データやユーザへのアンケート、その他Paykeのサービスについてご興味ございましたら弊社ホームページ「お問い合わせ」より、お気軽にご連絡ください。


お問い合わせ

Paykeのサービスについて詳しく知りたい方、または調査・分析のご依頼をご希望の方は、こちらまでお問い合わせください。
■株式会社Payke

本社:沖縄県那覇市真嘉比2丁目5−16

代表者:代表取締役CEO 古田 奎輔

設立:2014年11月

資本金:100百万円

URL:https://payke.co.jp/

概要:商品パッケージにある「バーコード」をスマホでスキャンするだけで、商品のあらゆる情報を7言語で表示することができる訪日外国人アプリ「Payke」を運営。現在、約68万点の商品データを7言語で保有し、訪日客が手に取る商品の約90%*3をカバーしています。2015年のサービス開始以来、アジア圏を中心に500万人*4以上が利用し、企業向けには広告配信やデータ提供を行うなど、累計1,200社以上の企業や団体に活用されています。さらに、「Paykeタブレット」を国内の主要小売チェーンに導入し、多くの訪日外国人に利便性を提供しています。

*3 当社実績(2024)Paykeアプリにて国内でスキャンされた回数を分母に商品情報を保有していた割合
*4 API提供先なども含む利用者

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